必須の「五角形スキルモデル」とその習得方法
向井 川村さんが考えるカスタマーサクセスに必要なスキルについて教えていただきたいです。
川村 カスタマーサクセスは、ジェネラリストだと思うんですよね。基本的に5つのスキルが必要だと思っています。ひとつが営業スキルで、お客様とのコミュニケーションや期待値コントロール。ふたつめがプロダクトの知識、これは当たり前ですが、プロダクトで何ができるかを理解する。3つめが業界知識。HubSpotならCRMやマーケティング、セールス、サポートなどの知識です。
さらに、プロジェクトマネジメントのスキルとコンサルティングのスキルも必要です。単に使ってもらうだけではダメで、カスタマーサクセス用語で「アウトカム(成果)」という言葉が最近出てきていますが、プロダクトを使って何を成し遂げたいのかをヒアリングし、マイルストーンを組んで実現していくスキルが求められます。
向井 この5つのスキルをすべて持っている人は少ないですよね。

約20年、IT業界において中小から大企業のB2Bの営業領域の職務に従事し、CxO等エグゼクティブに対するビジネスも多く経験。2019年に米App Annie日本法人のカントリーマネージャーに就任し、日本法人全体のビジネスを牽引。2020年7月よりウェルディレクション創業。B2Bセールスのアドバイザーとして上場企業からスタートアップまで、広く営業やマーケティングの側面から企業のビジネス成長に貢献している。2023年社会構想大学院大学実務教育学修士号取得。営業の暗黙知を学術的に形式知化するための専門職研究を行う。
川村 全部できる人なんてほとんどいません。5つのスキルをレーダーチャートにすると大抵どこか尖っている強みがあるため、その特徴を伸ばし、他の弱点をどう鍛えていくかが重要です。また、各社が提供するプロダクトラインナップや求められる役割が増えていく中でカスタマーサクセスに求められる業務範囲が広くなり過ぎて対応しきれないという課題も出てきています。これはグローバルでも議論されていますね。
向井 その課題に対する解決策はあるのでしょうか。
川村 カスタマーサクセス内での分業化が当面は進むと思います。オンボーディング専門、アダプション(活用支援)専門、リニューアル専門などの役割に分かれていくでしょう。

ネットワークエンジニアとしてグローバルネットワークの運用からキャリアをスタートし、その後米国SaaSのBrightcoveにてカスタマーサポートやマーケティング分野での経験を積む。またアカウントマネージャーとして大手企業を中心とした120社の既存顧客を担当。日本にカスタマーサクセスが広まる以前から、カスタマーサクセス業務に従事。HubSpot Japan株式会社では日本初のカスタマーサクセスマネージャーとして入社しチームを立ち上げ、その後Principal CSMおよびチームリードを歴任し、累計500社以上のCRM構築・運用支援に携わる。ANATAE株式会社でVP, Customer Successとしてカスタマーサポートを含むCS組織・運用・CRMを含むGTMインフラの構築を担当。現在はTSUMAMI CONSULTINGの代表として、カスタマーサクセスを中心とした支援活動を提供。スタートアップから大手企業まで幅広いクライアントに対し、カスタマーサクセス全般の支援や、CRMのゼロからの構築・最適化支援を得意とする。並行して日本カスタマーサクセス協会レビューボード(有識者委員)として、CSM育成・評価プログラムの策定に携わる。
向井 なるほど、ひと口にカスタマーサクセスと言っても、今後は1人ひとり得意な領域が分かれていきそうですね。求められるスキルが多岐にわたるカスタマーサクセスですが、スキルを伸ばす際、優先順位はどう考えれば良いでしょうか。
川村 まずは自分がどこに強いのかを把握することが大事です。たとえば私はマーケティングの知識があり、営業経験があったので、そこを中心に強化しつつ、足を引っ張らない程度にプロダクト知識やコンサルティングスキルを身につけていきました。
また、転職する場合は自分のスキルセットに合ったプロダクトを提供している会社を選ぶことも重要です。たとえば私が、セキュリティプロダクトのカスタマーサクセスマネージャーになったとしても、担当顧客はビジネスサイドではなくエンジニアの方がメインとなりますし、より着実なプロジェクトマネージメントも求められると思うので、強みではなく自分の弱いところがより求められる場所となり、活躍するのが難しくなると思います。